【SportNXT】現地参加レポート(前編)
- Ken Saito
- Mar 29, 2024
- 10 min read
Updated: Oct 9

3月19日〜20日にかけて、「スポーツの首都」としても知られるオーストラリア、メルボルンで開催されたスポーツビジネスカンファレンス「SportNXT 2024」に参加させていただきました。3回目の開催となる本イベントには、950人以上のスポーツ関係者が参加し、スポーツビジネスのあらゆるトピックについて、トップレベルのスピーカーがトークセッションを繰り広げました。日本ではなかなか得ることのできない情報ということもあり、少しでも現地の様子などをお伝えするため、レポート形式で共有させていただきます。
そもそも今回はGlobal Victoriaというオーストラリアのヴィクトリア州の商工会にご招待いただいたため、カンファレンス以外のイベントにも参加することができました。スケジュールの都合で参加できませんでしたが、ちょうど週末に行われるF1メルボルンGPの会場見学なども設定されておりました。Global Victoriaはオーストラリアと各国の企業を繋ぎ、ビジネスに発展させることを目的としているため、19日にはビジネスマッチングのセッションを開いていただいたり、カンファレンス中もちゃんと会いたい人に会えているか、カンファレンスはためになっているか、などと丁寧に気にかけていただきました。各州の商工会は東京やソウル、パリ、アメリカ、など各国にオフィスを構えており、かなり本気で前述の目的を達成しようとしていることが伺えます。
ビジネスマッチングセッション
カンファレンスが開催される前にGlobal Victoriaが招待した全員(30人程度)を集めてビジネスマッチングセッションが開かれました。
午前はGlobal Victoriaの代表から話があり、その後、Australian Sports Tech Network(ASTN)の代表からもオーストラリアのスポーツテック事情について話がありました。
そして、午後からは主にメルボルンやヴィクトリア州の企業も参加し、事前に取られたアンケートを元に各国の企業とビジネスマッチング。Three nilとしては、NBLやBasketball Victoriaとのミーティングがセットアップされ、有意義な会話をすることができました。また、ミーティング以外の時間でも他の参加者や企業と話すこともでき、今後の事業の発展の可能性を見出せました。

Day 1
カンファレンス初日は8:30からスタート。スケジュールはこちらの通り。
それぞれのセッション内容の詳細までは記載できませんが、キーポイントをシェアできればと思います。
発表
全てのセッションが始まる前に、ヴィクトリア州議会議員のSteve Dimopoulos氏が登場し、その日の朝に発表され間もないフレッシュな情報を発表してくれました。
それは、英プレミアリーグのトッテナム・ホットスパーとニューカッスル・ユナイテッド、更に英女子スーパーリーグのアーセナルがシーズン終了後にメルボルンでサマーツアーを行うということです。「スパーズ対ニューカッスル」、「ニューカッスル対Aリーグ・オールスター」、「アーセナル・ウィメン対Aリーグ・ウィメン・オールスター」の3試合を準備しているとのこと。
スパーズはアンジェ・ポステコグルー監督が指揮をとっており、「帰還」という形になりますが、それにしても両チーム、過酷なリーグ戦が終わった直後に長旅を経ての試合なので、コンディションが悪そうですね。ただ、FFPやプレミアのPSR(Profitability and Sustainability Rules)などがあるので、稼がないと行けないんでしょうね。女子チームがこのようにツアーするのも良いことだと思います。観客動員記録を何回も塗り替えているアーセナル・ウィメンには3人のオージーが所属していることもあり、お客さんもいっぱい入りそうですね。
そんな発表のあとに、なぜメルボルンはスポーツの中心地であり、「Sporting Capital」なのかを4つのポイントでまとめてくれました。
1.Experience of workforce(経験)
全豪テニスやF1グランプリ、各スポーツの決勝戦や国際大会をこれだけやっているからこそ、政府や観光関連のホテル・飲食店もお客様をもてなすことに慣れているので、各種大会も大きなトラブルが無く開催できる。
2.Infrastructure:sporting and cultural stadiums(インフラ)
これは政府のかなりの努力もあったと思いますが、市街から歩ける距離で先述のイベント会場に行けるのは、世界を見てもかなり稀です。その振り切った感じが、かなり功を奏している気がします。
3.Victorians show up(地元民が集まる)
国際大会を多く開催するので観光客に目が行きがちですが、実は多くの地元民(Victorians = ヴィクトリア州民)がしっかりと集まるのが安定した集客の基礎とのことです。スポーツにそれだけ関心があるのは羨ましいですね!
4.Hungry for what's next(貪欲)
そして、常にスポーツの都市としていられるのは、イノベーションや新しいものがヴィクトリア州から生まれるからです。オーストラリアにはたくさんのスポーツテック企業が存在しますが、41%はヴィクトリア州から出ているようです。そういう状況であれば、スポーツに関わる全ての方々にとってソリューションがあり、好循環が生まれるんでしょうね。
このオープニングセッションで、少しはメルボルンがなぜスポーツと切っても切り離せないのか、理解できた気がします。

THE STATE OF SPORT
このセッションではNBAのCTOであるKrishna Bhagavathula氏がパネルに参加しており、データやテクノロジーの重要性についてコメントされていました。スポーツはまず、ACCESSIBLEにして、届けるコンテンツをAPPEALINGにすることで、ENGAGEMENTを高められると話しておりましたが、そのサイクルの中で視聴者やファンのデータを解析し、AIなどのテクノロジーを駆使することで、それぞれのファンに適したコンテンツを届けられるようになる、とこのカンファレンスを通して何度も挙がった、基礎的な構造を説明してくれました
また、99%のファンが会場でライブイベントを体験できない現実があるため、20億人近くのグローバルのオーディエンス(しかも若い世代)をいかに楽しませられるかが、今後の課題だということです。

LA2028
メディアや広告関係の仕事をしていたら聞いたことはある、Casey Wasserman氏との対談は、圧巻でした。彼は現在、LA2028オリパラ実行委員会の会長的なポジションにいるのですが、LA大会が楽しみでなりません。既にLAには13のプロスポーツチームが存在しており、それぞれの試合を行うためのワールドクラスのスタジアムやアリーナがあるのです。直近のオリンピックでよく話題になっていたレガシーや残ったものをどう活用するかの話も必要ないのです。また、どの施設も、街全体もビッグイベント慣れしているので、問題ないでしょう。
たくさんのスポーツが集まるLAのような街は、どの施設も来場を促すため、また他会場と競うために、かなり知恵を絞っているようです。やはりお客様の体験がワールドクラスでなければいけなく、つまり、待ち時間が少なかったり、全てにおいて質が高くないと行けないのです。そして、そこで味わった体験を周りにシェアする、という好循環が生まれることが、成功の秘訣のようです。

EMERGING DIGITAL AND TECH BREAKOUT
ブレークアウトセッションでは、AIをテーマにしたトラックを選択。
最初のセッションでは、マイアミ・ヒートのデータを用いて事業戦略にも携わるEdson Crevecoeur氏の話が興味深く、自分たちで分析していた顧客データでチケッティングやメンバーシップの数値が伸びたので、新しい事業会社をつくり、他のNBAチームに横展開していった話がありました。競争力の高いスポーツ界では、非常に珍しいビジネスモデルと感じました。
また、別セッションではAIオタクのような教授や専門家が登壇し、Chat GPTのようなAIは活用されるが、同時に多くの批判を受けるということに対して、しょうがない、という見解。かなりの情報を精査して解を導く中で、disinformationやmisinformationは出てくるので、慣れるしかない、と。ただし、しっかりと「points of view」、「tone」、「experiences」をAIに与えれば、かなり精度の高い回答がもらえる、とのことでした。
そして、AIとは、価値創造を達成するための手段だ、ということを話しており、「何が起きたか」を教えてくれ、それをもとに、「何が起こるか」を予想し、最終的には「では、何をすればいいか」の答えを教えてくれるのではないか。更に、人間では考えられないようなソリューションを生み出す可能性もあり、囲碁で人間に勝利したAIが導き出した「Move 37」(37番手)を引き合いに、スポーツでもこのような戦術を組み立てるために活用できるのではないか、と話されていました。

EMERGING MARKETS
次に興味深かったのが、スポーツでは成長著しいカタールとインドについての話が立て続けにありました。
カタールは人口の約30%が30歳以下で(ちなみに日本は約27%)、少しずつ伝統的な考え方から脱却しつつあるようです。国民への教育もそうですが、スポーツイベントの数も増えてますし、スポーツに対する見方も変わり始めているとのこと。また、2022年に行われたワールドカップに対してはたくさんの批判があったものの、最終的には地域民を尊重し、会場でお酒を販売しなかったり、ボランティアの参加率が95%だったり、逮捕者が一人も出なかったりど、しっかり運営されていたことに触れられていました。

次にインドですが、他の業界同様、かなり注目を浴びているようです。なんと人口の65%が35歳以下であるため、テクノロジーを駆使し、ファンエクスペリエンスを向上することに注力しているとのこと。例えば、DisneyとViacomが提携し、視聴者のデータをより鮮明に把握する努力をしており、的確な情報を多大なリーチで届けることができれば、必ず売上がついてくる、というロジックを持つようになったとのことです。
また、個人的に面白かったのが、インドが強いクリケットというスポーツがあるのに、現地のゲーマーがこぞってプレイするのはサッカーゲームであり、クリケットのゲームは不思議とまだ出ていないということです。

ANGEL CITY FC
Day 1最後は、個人的には本カンファレンスで一番良かった、アメリカ女子サッカーリーグのAngel City FCの共同創設者であり、社長を務めるJulie Uhrman氏が締めくくりました。
何がすごかったかというと、ハリウッドの大女優であるナタリー・ポートマンと一緒にクラブを作ったこともそうですが、彼女のパッションとパワーに感銘を受けました。本当にこのクラブの目的を果たしつつ、収益化もしたいんだな、というのが伝わりました。会場全員が真剣に聞き入ってました。
彼女たちがクラブを作るまでは、LAにトップリーグの女子チームが存在しておらず、全くスポーツビジネスに携わったことのない3人の女性がスタートさせました。そして、スポーツチームの90%が利益を出さないと言われている中、女性スポーツの価値を高めながら、収益化させるというミッションを持ちました。もちろんまだクラブができて4年目なので、まだ途上フェーズです。
設立初年度はコロナ禍だったため、プレイを見せられるチームがなかったのですが、それをうまく利用し、ストーリーテリングを中心に、人々の感情に訴えて言ったのです。そして、コミュニティとの強いつながりを持ちながら、年間250ものイベントをするようになり、スポンサーからくるお金の10%は必ずコミュニティに落とすという座組を作ったのです。3月から3度目のシーズンをスタートさせましたが、これまでの平均観客動員数は19,000人。本当にすごいとしか言いようがありません。
アメリカで女子サッカーがここまで人気なのは、日本では考えられませんよね?MLSの決勝の視聴者数が約110万人に対して、NWSLの決勝の視聴者数はわずかに及ばない95万人ほどだったそうです。ここで彼女が放った言葉が印象的で、「女子スポーツファンはスポーツファンの中で一番苦労しているんじゃないか。どれだけ探しても、みたいチームの試合が見つからないから」とニーズはあるのに、供給が追いついてないことに不満を漏らしていました。
さらに、以下の3点を大事にし、チームは最高の試合体験を届けることに専念していると強調しました。
1.There’s a price point for everyone:それぞれのファンが試合に対して感じる価値があるので、それを覆さないように努力すること。
2.Never discount a ticket:これはJリーグ開幕当初の浦和レッズのチケット戦略にも似ていると思いますが、チケットの価値を下げず、付加価値を付けてお得に感じてもらうこと。
3.Every day is somebody’s first game:当たり前のことですが、これが一番心に残りました。なので、開幕戦や、大事な相手との試合はもちろんチームも演出も気合を入れるけど、それ以外でも初めて試合を観るお客様のために、最高の演出をしてあげよう、ということ。
最終的に彼らはしっかりとビジネスを成功させるため、認知を高め、知ってもらってからストーリーを伝えることで感情を動かし、エンゲージメントを高め、売上につなげ、コミュニティにしっかり落としていく、という流れをつくり、今のように注目を浴びているのです。
いつかAngel Cityを日本に招待し、WEリーグのチームなどと対戦してほしいと思いました。

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ここまでがDay 1でした。メモを見直して、書いているだけでもまた勉強になりましたし、いかに濃厚な1日だったか、少しでも伝わればと思っています。
Day 2の様子は、後編でお届けします!




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