アスリートの腱からみるパフォーマンスと健康の最大化
- Ken Saito
- Feb 20, 2024
- 7 min read
先日、KangaTechが数ヶ月に1回実施するウェビナーにて、カルフォルニア大学デイビス校のキース・バー氏が登壇致しました。
世界中から多くの方が参加していましたが、英語のみのセッションだったため、日本の方々が概要だけでも理解いただけるよう、内容を以下、要約致しました。動画(日本語字幕なし)をご覧になりたい方は、こちらのフォームにご記入いただくか、info@threenil.co.jpまでご連絡ください。
ウェビナー目次
バー氏のイントロダクション(1:44〜)
もともとはミシガン大学のアメフト部のS&Cコーチとして活動
そこで、同じプログラムをアスリートに与えても、各自反応(筋肉のつき方など)が違うことに興味を持ったため、カリフォルニア大学バークレー校にて修士課程につく
更に、イリノイ大学で今まで現場で行ってきたS&Cの工程をラボで研究していった
ネズミにレジスタンスエクササイズを実施させ、筋肉の肥大パターンをみることで、細胞レベルで筋肥大の要因を発見した
その後、博士研究員としてミシガン大に戻り、筋肉の組織からの作成に取り組んだ
実はその前に1年間ワシントン大学で耐久運動の父でもある、ジョン・ホロジー氏のもと、耐久運動中に特定のプロテインが活性化され、筋肥大を促進させることを発見した
ミシガン大では、失敗を繰り返しながら、ゼロから強い筋肉の作成に励んだが、筋肉同士をくっつけても腱がないと効果がないことを発見し、「腱」に着目
スコットランド、ダンディーで研究を続け、イギリスのサイクリングチームを強化するプロジェクトで、選手たちは筋肥大せずとも、筋力が上がったことを知る
つまり、筋肉量や神経順応以外に、「力の伝達」という要素も重要だということを確認した
現在では、ラボで腱や筋組織、靭帯を作り、多様なコントロールされた環境にこれらの実験台をおき、結果を観察することができている
アイソメトリックローディングの重要性(9:23〜)
肉離れの原理としては、腱が硬く、筋肉が強い場合が多い
腱が硬い分、筋肉が働かなければならないため
また、レジスタンスエクササイズなどで腱が柔らかくなっていれば、筋腱移行部にストレスがかかり、そこが怪我する場合もある
怪我をした部位によって、どのようなトレーニングを行っているかがある程度把握できる
トレーニングはピッチ・コートで行うものと、ジムで行うものの両軸で考える必要がある
筋肥大をさせ、その筋肉を使えるよう神経を発達させ、力の伝達能力も鍛えなければならない
それを手助けできるのがアイソメトリックエクササイズ
ただし、アイソメトリックの動きは試合などで行わないため、疎かにするコーチが多い
アイソメトリックは接続繊維を鍛え、力の伝達を向上させるのに適している
図1 人工腱での実験の様子
人口的に作った腱や靭帯をトレーニングすることで、アイソメトリックの重要性を検証してきた(図1)
アイソメトリックの方がダイナミックに腱をローディングするより多くの負荷に耐えられる(図2)
両方行うことが一番効果的(図3)
図2 アイソメトリック・ダイナミックローディングの比較
図3 低強度 v 高強度(最大負荷)運動をしたあとのロッククライマーのストレングス
アイソメトリックエクササイズの種類(20:38〜)
ロッククライマーのアイソメトリックトレーニングは「Heavy Yielding」(図4)程度の負荷を10秒間ほどかける
図4 負荷と耐久時間別のアイソメトリックエクササイズ一覧
強い負荷をかけると、筋組織にストレスが瞬間的にかかるが、徐々にリラックスしていく(図5)
前屈をして、徐々に地面に近づける構造と同じ
更に負荷をかけると、また高いストレスレベルを発揮するが、緩和される
強い負荷であればあるほど、腱の強い部分にシグナルが届くが、時間が経つにつれ、より広い範囲が影響されていく
つまり、腱のより高い割合に力の伝達能力がつくため、長い時間のアイソメトリックを実施する
怪我をしている腱においては更に効果的
図5 負荷レベルと筋組織にかかるストレスと緩和効果
事例:ジャンパー膝のトリートメント(27:01〜)
実際にジャンパー膝(膝蓋腱炎)に悩む選手で実験(図6)
30秒間x4レップのアイソメトリックトレーニングを週5回実施
アイソメトリックのため、筋肉痛のリスクが低い
短期間で効果がみられる(図7)
患部の周りを強化・ケアするのではなく、実際の患部を治療するほうが近道なのがわかる
図6 ジャンパー膝に悩む選手のスキャン
図7 同選手の7週間後のスキャン。回復度合いが顕著
オランダで同様の事例:76名のジャンパー膝に悩むハンドボール選手にアイソメトリックトレーニングを処方
従来のエキセントリックなリハビリより痛みの軽減が早く、プレーへの復帰が早かった
徐々に臨床的な成果もリハビリにおいてみえてきている
敢えて患部に負荷をかける(33:32〜)
急性的な痛みで腱は腫れることがある
それにより、ゴルジ腱紡錘が圧迫し、痛みの信号を出す
結果、負荷をかけられなくなってしまう
早い段階で少量の負荷をかけ、水分を逃がすことで、圧迫感を軽減することが可能
頻繁にやることで、早い段階からアイソメトリックを実施し、徐々に負荷を高めることができる
NBA選手の事例(ジャンパー膝)
シーズン中約50試合出場+トレーニングをこなしているが、それらの運動の際は患部の周りが負荷を受けている
そのため、ジムのセッションでは患部に負荷をかける
多くの人は、運動したあとは6時間程度休憩を挟んでからでないと、再度運動は氏ないほうがいいと思うが、ダイナミックな運動中は患部の細胞は刺激を受けていないため、ジムで10分感力の伝達力を鍛えるのには効果的
固定器具の落とし穴(40:27〜)
よく疑心暗鬼のS&Cコーチには、激しいスプリントをして、両脚にエキセントリックな負荷を与えたあとに、片脚だけアイソメトリックな負荷を加えてみて、と伝える
必ず、何もやっていない脚の方が筋肉痛になる
足首を捻挫すると、必ずといっていいほど固定器具を与えられる(図8)
エジプトで4,500年前に使われていたものと同じ技術
3日間使用するだけで、筋肉量が10%も減り、腱のコラーゲン量も20%減る
健康な腱を固定してこの結果なのであれば、損傷している腱は固定してはならないことがわかる
図8 足首の固定器具が及ぼす筋肉と腱への影響
固定しつつ、モビリティを加える方法(47:00〜)
骨や軟骨を固定しなければならない場合もあるが、その場合は定期的に固定器具から出し、水中でモビリティトレーニングもできる
長期間動かさないことが一番怖い
多くのドクターが長期間安静にすることを求めるが、パフォーマンスコーチとしてはそこは戦わなくてはならない
ロージャークトレーニングで負荷を軽減できる
痛みを感じる手前まで四肢を可動させ、そこからアイソメトリックを30秒間続ける
慣れてきたら可動域が広がるので、通常の可動域に戻ったら、アイソトニックの動きを入れられる(2〜3週間後には通常のウェイトをリフトできる)
Arthrexなどの人工的な腱・靭帯での代用(53:03〜)
Arthrexの使用(NFLアーロン・ロジャーズ選手の事例)
選手がアキレス腱を断裂した際、手術をし、Arthrexを埋め込んだ
「より早く負荷をかけられるように」というが、実際の筋組織には負荷がかけられなくなる
よって、Arthrexに負荷はかけられるが、実際に筋力がつかないし、Arthrexがすり減ってくると、一気に筋組織に負荷がかかり、耐えられなくなり、再発する
代替器具を使うことで、腱の細胞は増えるが、コラーゲン量は減り、コラーゲンの構成もランダムになったため、意図的に傷を作っているのと同じ(図9)
図9 膝蓋腱と脛骨プラトーをワイヤーで結んだ場合の腱の変化
埋め込まれた人工的な腱などがあると、実際の腱に負荷をかけることが難しくなるため、非常に厄介
効果的な指標(59:06〜)
よく使う指標のひとつは「Rate of Force Development (RFD)」(力の立ち上がり率)
コントロールされた姿勢でなるべく早く、最大の力を発揮するようアスリートに伝えることで数値化できる
この数値をみることで、腱の硬さをみることができる
最大出力が減り、RFDが高いと、最初に述べたような問題が起こり得る
その場合、高い負荷のアイソメトリックトレーニングや休暇を与える
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